「三顧の礼」の意味
「三顧の礼」(さんこのれい)とは、人材を招聘するために何度も足を運んで丁重にもてなし、誠意をもって迎えることを意味する四字熟語です。特に優秀な人物を求めて、その人の元へ何度も訪問し、誠意を示して招くという意味を持っています。
「三顧の礼」の由来と歴史的背景
「三顧の礼」の由来は、中国の三国時代(220年〜280年)の歴史にさかのぼります。『三国志』に記された有名なエピソードが元となっています。
蜀の君主となる劉備(りゅうび)は、優秀な軍師を求めていました。その時、徐庶(じょしょ)という人物から「諸葛亮(しょかつりょう)、字を孔明(こうめい)という非常に優秀な人物がいる」と聞きます。諸葛亮は当時、南陽の隆中という場所で隠居生活を送っていました。
劉備は諸葛亮の住む草廬(そうろ)という粗末な庵(いおり)を訪ねますが、最初の2回は不在で会えません。そして3回目の訪問でようやく対面することができました。この誠意に打たれた諸葛亮は劉備に仕えることを決意し、後に蜀の軍師として「天下三分の計」を立て、大いに活躍しました。
諸葛亮は自ら書いた「前出師表(ぜんすいしのひょう)」という書物の中で、身分の高い劉備が自分のような若く無名の人間のもとへ三度も足を運んでくれたことへの感謝を記しています。
「三顧の礼」の現代における使い方と例文
現代において「三顧の礼」は、特に目上の立場にある人が、優秀な人材を獲得するために丁重に誠意を示して迎え入れるという状況で使用されます。
正しい使い方
「三顧の礼」は、目上の人が目下の人に対して使う表現です。年齢や地位が上の人が下の人に対して礼を尽くして招くという意味を持ちます。目下の人が目上の人に対して使うのは誤用となります。
例文
- 「ライバル会社でめざましい実績を上げた彼を、わが社は三顧の礼を尽くして迎えた」
- 「彼のような優秀な人材は、三顧の礼を尽くして迎え入れたい」
- 「卒業生のメジャーリーガーを、校長先生が三顧の礼を尽くして母校に招いた」
類義語と対義語
類義語
- 草廬三顧(そうろさんこ):「優秀な人材を獲得するためには、礼儀と処遇が必要である」という意味の言葉です。
- 三徴七辟(さんちょうしちへき):「礼儀を尽くして優秀な人材を招くこと」という意味です。
- 三拝九拝(さんぱいきゅうはい):何度も何度も頭を下げて頼むことを言います。
- 招聘(しょうへい):礼を尽くして人を招くこと。
対義語
- 慇懃無礼(いんぎんぶれい):表面的には丁寧だが、内心では人を見下している態度。
- 傲岸不遜(ごうがんふそん):威張って人を見下す様子や態度。
- 門前払い(もんぜんばらい):来訪者を迎え入れずに追い払うこと。
- 冷遇:冷たく扱うこと。
類義語と対義語
「三顧の礼」に相当する英語表現はいくつかありますが、直接対応する単語はなく、文脈によって表現が変わります。
- show(ing) special courtesy:特別な礼遇を示すこと。
例:He showed special courtesy to recruit the talented engineer.
(彼は有能なエンジニアを採用するために特別な礼遇を示した) - with all eagerness:全力で熱心に。
例:The company president approached him with all eagerness to join the team.
(社長は彼にチームに加わるよう全力で熱心に接触した) - go all out:全力を尽くす。
例:The Prime Minister went all out to get him to serve as Minister of Justice.
(首相は彼を法務大臣に迎えるために全力を尽くした) - (the) Three Visits:「三国志」の英訳でよく使われる直訳表現。
「三顧の礼」は単なる古い故事ではなく、現代のビジネスシーンや社会生活においても、人材登用や誠意を示す文脈で広く使われている表現です。正しく使うことで、古来からの知恵を現代に活かすことができます。