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「一衣帯水」の意味
読み方: いちいたいすい
意味: 一筋の帯のように細く狭い川や海峡によって隔てられているが、極めて近接していることの比喩。転じて、二つのものの距離が非常に近いことや密接な関係を表します。
「一衣帯水」の由来と歴史的背景
「一衣帯水」の語源は、中国南北朝時代(6世紀後期)の南朝の歴史書『南史・陳後主紀』に記されている故事に由来します。
歴史的背景:
- 南朝陳の第5代皇帝・陳後主(在位582-589年)の時代
- 陳の君主の悪政により、庶民が飢えと寒さで窮地に陥った
- 隣国である隋の文帝(楊堅)がこの状況を見かねて発した言葉
原文: 「我為百姓父母、豈可限一衣帯水、不拯之乎」
現代語訳: 「私は民衆の父母の立場にあって、どうしてあんな細い川(揚子江)で隔てられているからといって、その民を救わないでいられようか」
隋の文帝は、揚子江という一筋の帯のような細い川に隔てられているからといって、苦しんでいる陳の民衆を見捨てることはできないと述べ、後に陳を討伐することになりました。
「一衣帯水」の現代における使い方と例文
- 一:数詞「一つの」
- 衣帯:着物の帯
- 水:川や海峡
正しい区切り方は「一」+「衣帯」+「水」で、「一つの帯ほどの水」という意味になります。
現代における使い方
主に以下のような場面で使用されます:
- 国際関係・外交の文脈
特に日中関係において頻繁に使用される
地理的に近い隣国同士の関係を表現 - 地理的近接性の表現
海峡や川で隔てられた近隣地域の関係
例文
- 外交・国際関係
「日中両国は一衣帯水の隣国であり、友好関係は他国にもまして大切にしなければならない」
「一衣帯水の隣国と協力して経済発展を図る」 - 地域関係
「京都と大阪は一衣帯水だけど、気風は大きく違う」
「隣村とは一衣帯水、困った時には助け合っていかなければならない」 - 比喩的用法
「羽田−上海間は、空路でわずか3時間ほど、一衣帯水の地を実感したものだ」
「一衣帯水」の類語と対義語
類語
- 衣帯一江(いたいいっこう):一筋の帯のような川
- 近隣諸国:地理的に近い国々
- 隣邦(りんぽう):隣の国
対義語
直接的な対義語は特にありませんが、距離や関係の遠さを表す表現として:
- 天涯海角(てんがいかいかく):この世の果て、極めて遠い場所
- 遠隔の地:遠く離れた場所
- 山川万里(やまかわばんり):山や川を越えた遠い距離
「一衣帯水」の英語表現
「一衣帯水」の英語表現は以下のようになります:
- narrow strip of water:狭い水路
- narrow strait:狭い海峡
- narrow channel:狭い水路
- being separated only by a narrow strip of water:狭い水域によってのみ隔てられている
使用例:
“Japan and China are separated only by a narrow strip of water.”
(日本と中国は一衣帯水の間柄である)
「一衣帯水」は、隋の文帝の人道的な発言に由来する歴史ある四字熟語で、現代では特に日中関係をはじめとする国際関係において、地理的近接性と友好関係の重要性を表現する際に頻繁に使用されています。単なる物理的距離の近さだけでなく、精神的・文化的な結びつきの強さも含意する深い意味を持つ表現といえるでしょう。