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「覆水盆に返らず」の意味
覆水盆に返らず(ふくすいぼんにかえらず)は、一度起きてしまったことは元に戻すことができない、取り返しがつかないという意味のことわざです。
「覆水盆に返らず」の由来と歴史的背景
このことわざの由来は、古代中国の故事にあります。
殷(いん)の時代末期、後に太公望として知られる呂尚(りょしょう)という人物がいました。彼は毎日読書にふけってばかりいて、生活は貧しく、妻を養うことができませんでした。妻は夫に愛想を尽かして家を出て、他の男性と結婚してしまいました。
その後、呂尚は周の文王に仕え、立身出世して高い地位に就きました。それを知った元妻が復縁を求めて戻ってきたとき、呂尚は水を盆にくんで地面にこぼし、「この水を元の盆に戻してみよ」と言いました。当然、こぼれた水は盆に戻すことはできません。呂尚は「一度こぼれた水が盆に返らないのと同様に、私たちの関係も元には戻らない」と言って復縁を断ったのです。
この故事から「覆水盆に返らず」という言葉が生まれました。
「覆水盆に返らず」の現代における使い方と例文
現代では、結婚関係に限らず、広く「取り返しのつかない状況」を表現するために使われています:
例文
- 「大事な書類を誤って処分してしまい、覆水盆に返らずである」
- 「あんなことを言って友人を傷つけてしまい、覆水盆に返らずではあるが、深く後悔している」
- 「会社を辞めてしまった今、覆水盆に返らずだが、もう少し考えればよかった」
- 「ガラスを割ってしまったが、覆水盆に返らずだ」
「覆水盆に返らず」の類語と対義語
類語
- 後悔先に立たず – 後悔しても過去は変えられない
- 時すでに遅し – もう手遅れである
- 後の祭り – 時機を逸してからでは意味がない
- 取り返しがつかない – 元の状態に戻すことができない
- 破鏡再び照らさず(はきょうふたたびてらさず) – 割れた鏡は物を映さない
- 覆水不返(ふくすいふへん)
対義語
「覆水盆に返らず」の明確な対義語は存在しませんが、関連する表現として:
- 焼けぼっくいに火がつく – 一度終わった男女の関係が再び燃え上がる
- よりを戻す – 別れた恋人同士や夫婦が復縁する
「覆水盆に返らず」の英語表現
以下のような英語表現があります:
- “It is no use crying over spilt milk.”
直訳:「こぼれたミルクを嘆いても仕方がない」
最も一般的な英語表現 - “What’s done cannot be undone.”
直訳:「なされたことは元に戻せない」
シェイクスピアの戯曲『マクベス』に登場する有名なセリフ - “What’s done is done.”
直訳:「済んだことは済んだこと」
これらの英語表現は、日本語の「覆水盆に返らず」と同じように、過去の出来事を嘆いても意味がない、起きてしまったことは変えられないという意味を表しています。
「覆水盆に返らず」は、古代中国の叡智が現代にも通じる普遍的な人生の教訓として、日本語の中に深く根付いたことわざと言えるでしょう。