「朝令暮改」の意味
「朝令暮改(ちょうれいぼかい)」とは、「法律や命令がすぐに変更されて安定しないこと」を意味します。より具体的には、朝に出した命令や方針を夕方には変えてしまうという状況を表し、政策や指示が頻繁に変わって一定しない状態を指します。
「朝令暮改」の由来と歴史的背景
「朝令暮改」の由来は、中国の前漢時代(紀元前202年~8年)にさかのぼります。『漢書』の「食貨志」に記されている故事に基づいています。
紀元前180年頃、文帝の時代、晁錯(ちょうそ)という名文家として知られた臣下が、農民の苦しい生活状況について皇帝に次のような上奏文を提出しました:
勤苦如此、尚復水旱之災、急政暴賦、賦斂不時、朝令而暮改
(現代語訳:農民たちの生活はこのように苦しいものである上に、水害や干ばつにも見舞われ、必要以上の税金を課せられ、しかも朝に出した法律が夜には改められています。)
この上奏文は、農民が厳しい労働環境に加え、法律や命令が頻繁に変わることによって振り回されている実情を訴えたものでした。文帝はこうした進言を取り入れ、減税や改革を行って国家を立て直していったとされています。
この「朝令暮改」は当初、批判的なニュアンスを持つ言葉として長く使われてきました。命令や法律が安定せず、民が振り回されることの問題点を指摘する表現として定着しました。
「朝令暮改」の現代における使い方と例文
一般的な使い方
現代では、「朝令暮改」は主に以下のような状況で使われます:
- 批判的な意味合い:方針や命令が頻繁に変わることで周囲を混乱させるという否定的なニュアンスで使用
例:「あの上司の指示は朝令暮改だから信用してはいけない」
例:「朝令暮改な指示が多すぎてビジョンが見えない」 - ビジネスシーンでの使用:特に上司から部下への情報伝達が頻繁に変更される状況で使われ、信頼性の欠如を表現
肯定的な使い方
近年では、急速に変化する現代社会において、状況変化に応じて迅速に対応できるという観点から、肯定的な意味で使われるケースも増えています:
例:「PDCAを高速で回すには、むしろ朝令暮改の精神で取り組むべきだ」
例文
日常での使用例
- 「あれ?今日の朝のミーティングで、13時から開始って言わなかった?それが16時からに変わってるよ。まったく朝令暮改だね」
- 「社長の方針は常に朝令暮改で社員は対応に追われている」
- 「役員総入れ替えの後は朝令暮改な指示が減り、会社の状況は安定している」
ビジネスシーンでの使用例
- 「会社の経営方針が朝令暮改では、従業員のモチベーションが上がらない」
- 「プロジェクトの方向性が朝令暮改だと、チームの信頼関係が崩れる」
- 「市場の変化に対応するためには、時に朝令暮改も必要だ」(ポジティブな使い方)
「朝令暮改」の対義語と類語
対義語
「朝令暮改」の対義語は以下があります:
- 首尾一貫(しゅびいっかん):
考え方や態度などが始めから最後まで変わらないこと
例文:「彼の反対の姿勢は首尾一貫していた」 - 終始一貫(しゅうしいっかん):
初めから終わりまで態度が変わらず、主義主張を貫き、矛盾がないこと
「朝令暮改」とほぼ正反対の意味を持つ - 確乎不抜/確固不抜(かっこふばつ):
信念や意志がしっかりして何ものにも動かされない様子
例文:「議長の確乎不抜のスピーチは、多くの人々の胸を打った」
類語
「朝令暮改」の類義語には以下があります:
- 朝改暮変(ちょうかいぼへん):
「朝に改め夕方にまた変える」という意味で、「朝令暮改」と同義
例文:「社長の対応ぶりは朝改暮変というほかない」 - 二転三転(にてんさんてん):
物事の内容や状態、成り行きなどが何度も変わること
例文:「審議は二転三転した」 - 朝種暮穫(ちょうしゅぼかく):
「朝にタネをまき、夜に収穫する」という意味で、方針が定まらないことを比喩
例文:「教育方針が朝種暮穫であってはならない」 - 右顧左眄(うこさべん):
周囲の状況をうかがってばかりで何も決定できないでいる様子
例文:「彼の態度は右顧左眄するばかりで、責任ある発言をしようとはしない」
「朝令暮改」の英語表現
「朝令暮改」に相当する英語表現としては、以下があります:
- Inconsistent behavior / Inconsistent policy:
「一貫性のない行動/方針」という意味
例文:「My boss is inconsistent.(私の上司は朝令暮改だ)」 - Frequent change of regulations:
「頻繁な規則の変更」という意味 - Chop and change:
「頻繁に方針や考えを変える」という意味の慣用表現 - The law is not the same at morning and at night:
直訳的な表現で「法律は朝と夜では同じではない」という意味 - Lack of principle:
「原則の欠如」という意味
ビジネス場面では次のような表現も使われます:
- 「They (management) change rules too often.(彼ら(上層部)はルールを頻繁に変えすぎる)」
「朝令暮改」は2000年以上もの歴史を持ち、今日でも日常会話やビジネス場面で頻繁に使われる言葉です。元々は批判的な意味合いで使われていましたが、現代では状況に応じた迅速な対応という観点から、肯定的に捉えられることもある興味深い言葉です。文脈によって使い分けることが重要でしょう。